「赤毛のアン」(モンゴメリ)

作品中に占める主人公の台詞率第一位

「赤毛のアン」
(モンゴメリ/村岡花子訳)新潮文庫

独身のまま老境にさしかかった
マシュウ・マリラの兄妹は、
孤児院から男の子を
もらい受ける約束をする。
マシュウが駅から
連れて帰ってきたのは、なんと
赤髪の女の子・アンだった。
マリラはアンを
送り返そうとするが
マシュウは…。

「ああ、好きなだけ話をしていいよ。
 わしはかまわないからな。」

出会ってすぐのアンに、
マシュウが言った台詞です。
アンは孤児院で育った少女、
マシュウはアンを引き取る、
その出会いの場面です。
まさに、この一言から壮大な(?)
赤毛のアン・シリーズの
幕が切って落とされるのです。

第一作の本書は、全編、
アンの台詞で彩られています。
いやはや、
ものすごいおしゃべりの量です。
主人公告白型の小説を別とすれば、
作品中に占める主人公の台詞率は
他の作品を大きく引きなはして
第一位だと思われます。
この小説は、つまりはアンの
おしゃべりで成り立っていると言っても
過言ではないのです。

よく考えると、私たちの周囲にも
一人二人はいそうです。
自分一人でしゃべりまくる人間は。
人の話はろくに聞きもせず。
自分で話せばそれきり。
忙しいときは迷惑至極です。

でも、その人はそういう性格であり、
それはちょっとやそっとでは
直らないものなのです。
まわりにマシュウのように
上手に聞き役に回ってくれる人があれば
お互いに救われるのです。

多分、作者のモンゴメリも
そのタイプなのでしょう。
私たち読み手は、
モンゴメリのおしゃべりを、
「好きなだけ話をしていいよ」と
寛容な気持ちで接することが大切です。
それができないと本作品を
読み進めることは難しいと思います。
なにせ第一作の本書で524頁。
それが十作もあるのですから。
とりあえず一作目は
頑張って読みました(今回は再読!)が、
二作目以降は、モンゴメリの、
いやアンのおしゃべりに
つきあいきれるかどうかわかりません。

でも、再読し終えて
楽しかったという思いがしています。
私はどちらかというと
無口な方ですので、
聞き役に回った方が
気持ちが楽だからなのでしょうか。
まあ、五十を過ぎたおじさんの
読む本ではないのかもしれませんが。

廃れていく一方かと思われましたが、
数年前に訳者の村岡花子が
NHKのドラマの主人公化で
再び脚光を浴びた本シリーズ。
もし「名前は知ってても
読んだことのない本」海外作品の部を
選出すれば、
間違いなくベスト10に入るであろう
本書を、ぜひ中学生に、
そして知ったかぶりをしたがる
大人の皆さんに
お薦めしたいと思います。

(2020.8.3)

melancholiaphotographyによるPixabayからの画像

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